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活用事例

直列6気筒
シリンダーヘッドの
リバースエンジニアリング

撮影装置:phoenix v│tome│x c450
試料寸法:700mm × 165mm × 108mm
試料材質:アルミ鋳物および鉄のインサート部材
撮影時間:1時間程度
ボクセルサイズ:146μm

JMC L6 HEAD

Issue

旧車のレストアパーツ製造のためにシリンダーヘッドを3Dデータ化したい

世界中のユーザーに長年愛されてきたL28型エンジンに使用される直列6気筒シリンダーヘッド。市場在庫が減少するこの製品を、現代の技術で復刻することを目的として、産業用CTの技術を活用しました。

L6 HEAD 販売サイト(Pams)

L6 HEAD 販売サイト(Pams)

Point 01

ミリフォーカスCTでマルチスキャン

まずは現物のデータを取得するため、既に実車で使用していたシリンダーヘッドを取り外しCTスキャンを行いました。使用した装置は、JMCで最も大型のワークサイズを持つミリフォーカスCT「phoenix v|tome|x c450」です。

長手700mmのサイズの製品は、本機でも1スキャンで全体を写すことができないため、マルチスキャン(3分割)を行いデータ上で自動でマージしています。

L6 HEADのCTスキャンの様子
マルチスキャンのイメージ
Point 02

スキャンしたことで懸念点が顕在化

CTスキャンを行ったことで形状の3Dデータ化が実現したことはもちろん、外観上は分かり得なかったポート内部の溶接痕や偏肉による強度不足、ウォータージャケット内の駄肉による形状不良などが顕在化しました。

本プロジェクトではこれらのリスク・不具合に対して、鋳造時の品質管理や、製品の設計変更によって解消を図っています。

肉厚が極端に薄い箇所を検出
Point 03

謎のリングを発見

CTスキャンしたデータを断層画像で観察したところ、ウォータージャケット内に謎のリング形状が映し出されました。

鉄製のリング

このリング形状はCTスキャンで発見するまで全く想定していなかった構造で、L型のチューンに長年携わるショップでも知らない方がほとんどでした。CTでの映り方や位置などから、鉄製で鋳ぐるみ(※1)によってアルミと一体化させていることが判ります。

ガイドに対する補強であることを予想し寸法を測定しましたが、ガイドとリングは平行に配置されていなかったため補強部品とは考えづらく、この段階では設置目的を解明することはできませんでした。

近年は既製品の製造当時よりも材料開発が進み、高性能なアルミ合金が使用できることから、今回のプロジェクトで製造するシリンダーヘッドには必要ない構造と判断し、鉄部分もアルミに置き換えて製造を行いました。

鉄製のリング

なお、後日専門家に伺ったところ、この構造は製造当時の合金で懸念された熱間割れ対策であることが判明しています。

※1 鋳ぐるみ:鋳造時に型にセットして溶かした金属を流し込み、鋳物と密着させる工法

Point 04

スキャンデータからCADデータ化

シリンダーヘッドのような機械部品を製造する場合、加工用の機械図面や3D CADデータが必要になります。今回のケースではそのいずれも保有していませんでしたので、CTスキャンデータを基に構築することが求められました。

そのための第一歩として、まずはCTスキャンで得られたボクセルデータから、外部のソフトウェアで使用できるSTLデータに変換して出力します。

STLデータとは三角形の集合で構成されたメッシュデータになるため、CADソフトウェアで編集できるよう、CADサーフェスに変換します。

メッシュからCADサーフェスへの変換には「オートサーフェス(自動面貼り)」と「モデリング」という2つの手法があります。

「オートサーフェス」の場合は、半自動で変換するため短時間で作業が完了しますが、角が丸まってしまうなど製品が本来持つ形状が完全に再現されません。また、サーフェス面もCADでの編集には適さない構成になってしまいます。

完成CAD 完成CAD
ポリゴンメッシュ ポリゴンメッシュ

一方で「モデリング」の場合は、STLデータを参考にリバースエンジニアリング専用のソフトウェアでCADデータを構築していく手法で、エンジニアがゼロからモデリングしていくことになるため、「オートサーフェス」と比べて時間のかかる作業になります。しかし、CTスキャンで得られた正確な形状をトレースしますので、非常に再現度の高い3D CADデータが完成することが特徴です。

今回は後者の手法でデータを構築し、その後お客様のニーズに合わせて設計変更を加えました。

Point 05

再設計によりリスク解消&性能アップ

製品の復刻をするにあたって、ただ再現するだけではなく品質や性能、利便性の向上を目指したいというユーザーの要望があったため、JMCのデータエンジニアが設計の見直しを行いました。

JMCは非破壊検査だけではなく、金属製品の製造も行っているため、製造工程も見据えた合理的な設計を行えるという強みを持っています。また、今回は自社で最も得意とする鋳造製品であったため、その強みを最大限に生かし、様々な設計変更を実施しました。


【主な変更内容】

  • 1. 燃焼室形状及び容積を変更
  • 2. ウォータージャケット形状の最適化
  • 3. ポートの軌道をヘッドボルト穴を回避するように変更
  • 4. アルミ材料をAC4CH(砂型用高級アルミ合金)に変更し強度と耐久性を向上
  • 5. 使用頻度の低いボス、砂抜き用グロメット、水メクラ蓋等を廃止(替りにダイレクトイグニッション取付用や吊りボルト用のボスを追加)
  • 6. 純正にて割れ等の報告がある箇所を補強
ウォータージャケットの設計変更

詳細は下記のプロジェクトサイトでもご確認いただけます。