活用事例

活用事例

アート作品のための
3Dデータ作成

撮影装置:phoenix nanotom m

撮影対象: かじったリンゴ/カブトムシ/つぶれた空き缶など
撮影時間:各 1 時間以内

本の中の空洞

Issue

本の中に閉じ込める3次元形状の作成

本の中に特定の形の空洞を空けたアート作品をつくりたいというアイデアをお持ちだったお客様から、空洞の形状とするための3Dデータを、CTスキャンによって作成するご依頼をいただきました。

Point 01

卒業制作アート作品『B(  )K』

多摩美術大学の学生であった永井様の卒業制作作品に、「CT技術の提供」という形でお手伝いをさせて頂きました。本という紙の束に対し1ページずつ、ものの輪郭をくり抜くことで、空洞の彫刻を閉じ込めています。制作にあたっては、大小さまざまなサンプルをCTスキャンし、断層画像の輪郭を1ページずつレーザーカッターで切り出し、製本するという大変な工程を経て完成しています。今回は永井様のインタビューを掲載しておりますので、ぜひ最後までご覧ください。

Point 02

制作者インタビュー

永井様と営業・桂川

ー 学校ではどんなことを学んでいらっしゃいますか

1・2年次はデザイン領域を横断的に学び、デザイナーの基礎となる「考えてモノをつくる」ことを身につけました。
3年次からはアートディレクションを専攻し、ビジュアルで魅力を生み出すことを学びました。その学びを通して役に立つだけでない「豊かにするデザイン」に興味をもち、「誰かを笑顔にするデザイン」を目指して制作へ打ち込んできました。そして、ビジュアルだけでなくアイデアで世の中を笑顔にしたいという姿勢へと繋がりました。

ー 多摩美術大学 美術学部 統合デザイン学科について教えてください

私が卒業予定の統合デザイン学科は、「従来の領域の区分を取り払い、横断的に学ぶための新たなデザイン教育の場」として2014年に設立されました。その理念はカリキュラムにより実現され、各デザイン領域の最前線で活躍する方々が教授として在籍しています。「デザインを統合的に学び、デザイン領域を見定めて深める」という形態は、毎年改良しながら最適なデザイン教育の場を模索しています。
そんな4年間の集大成として、この作品が完成したことは一つの自信となりました。

多摩美術大学

ー B(  )Kはどういった作品なのでしょうか

紙の束に空洞を閉じ込めた、めくる彫刻です。紙は二次元的でありながら、僅かに体積があります。そして重ねると本となり、 確かな体積をもった「めくれる立体」となります。
B(  )Kをめくると、中に閉じ込められた空洞の断面がパラパラと現れます。本の他にコマ撮り映像を制作して、触れずとも作品の魅力が伝わるように展開していきました。アナログとデジタルを行き来するような、様々な発見を孕んだ作品となりました。

「つぶれた空き缶」の本

「つぶれた空き缶」の本

ー 作品の評判はいかがでしたか

近づいて紙の積層を観察する方や、実際にB(  )Kをめくって思わず声を上げる方など、さまざまなリアクションをいただけて、「やっと努力が報われた…」とほっとしました。また「どうやって作ったの?」という質問が一番多かったです。「CTスキャンの技術を応用したんです」と説明すると、「なるほど!」と見た人の中でまた新しい驚きが生まれているように感じたのも印象的でした。

ー 制作するうえで苦労したポイントはどこですか

一つの本を作るのに時間がかかるため、作品数に限界がありました。そうした中で、「どんな空洞を閉じ込めるか」を考えるのに一番苦労しました。動物だけを本にするという手段もありましたが、そうするとB(  )Kが見せる景色の可能性を減らしてしまう。限られた数でどこまでこの作品の可能性を広げられるか、という点に一番悩みました。それに伴い、選定によって使わなくなったデータも沢山あります。
我儘なオーダーに付き合ってくださったJMCさんには、改めて感謝申し上げます。

卒業制作展での展示

卒業制作展での展示

ー 産業用CTを使ってみた感想を教えてください

CTスキャンの存在は、MRI検査を受けたことがあったのでなんとなく知っているくらいでした。しかし、いざ作品をCTスキャンしてもらい、その精度の高さに驚きました。
最初に「かじったリンゴ」をスキャンしてもらったのですが、歯形の細かな凹凸から果実の種や繊維まで細密に映し出され、さらに自由な位置で断面を観察できる。
「B(  )Kを作るためにある技術だ!」と勝手ながら思いました(笑)

「かじったリンゴ」の作品をレントゲン撮影で可視化

「かじったリンゴ」の作品をレントゲン撮影で可視化

ー 今後のビジョンを教えてください

可能であれば、これからもB(  )Kを増やしていきたいと考えています。
卒業制作展では限られた人にしか実際に触ってもらえなかったため、より製本精度を高めて少しでも多くの人にこの本をめくって欲しいです。カブトムシくらいのサイズなら量産して販売なんかできるかも…なんて考えたり(笑)
ただ、この卒業制作に引っ張られすぎず、新しい体験を生み出せていけたらなと思います。

ー 永井様 ありがとう御座いました

2021年多摩美術大学 卒業制作展にて

2021年多摩美術大学 卒業制作展にて